私の会社はブラックが過ぎる
このブログ記事「広告カットイン小説」は、小説の作中に登場する商品の広告を入れることで、気がついたらその商品を購入してしまうという、革新的なビジネスモデルの小説である…。
第一話:驚異の新人、現る
私の名前は、新宮司明音(しんぐうじ・あかね)。
私は現在「OverWorks(オーバーワークス)」という名の、都内の零細企業で働くプログラマーだ。
新卒でこの会社に入社して早3年、毎月降りかかる大量の仕事を前に、私の肉体と精神は日々限界を試されている…。
そう、私の会社はいわゆる「ブラック企業」なのだ…。
私が働く会社「OverWorks」は、エンジニア兼社長の「武野宇(むのう)」と、営業部長の能金(のうきん)とその部下氷上(ひがみ)、そしてプログラマーである私と、時々事務のお手伝いにくるアルバイトの井伊(いい)さんの、4人の社員とアルバイト1人で構成される。
営業の能金と氷上が受託案件の仕事を取ってきて、武野宇社長と私がその受注したシステムのコードを書くスタイルだ。
しかし、残念ながらこのスタイルは、プログラミングを行う社長と私には酷な状態だった。
プログラミングのことが全くわからない能金部長は、いつも無理な条件で仕事を取ってくる。
それに対して気弱な武野宇社長は何も言わず、せっせと案件に取り掛かる。
社長は技術力はあるが、生粋のエンジニアといった性格で、自分では仕事を取ってくることができない。
そのため、10歳は年が離れているだろう営業部長の能金に対しても強くモノを言えない様子だった。
今回もそんな無茶な案件によって、私は連日の徹夜が続いていた。
*************
この会社で寝泊りして、何回目の夕焼けだろうか。
時計の針は17時を指していた。
ただ幸いなことに、ようやく案件の終わりも見えてきていた。
連日飲んでいたレッドブルも、しばらくは飲まなくて済みそうだ
ガチャ
入り口の扉が開いた。営業の外交から能金が帰ってきた。
「おい!新宮司ぃ!」能金が言った。
「は、はい」私が返事をした。
返事をした声が自分で想像したよりも小さく弱々しいことに驚いた。
「今やっている強欲商事の案件。先方からほんのちょっとだけ変更して欲しい箇所があるっていうから、対応しておいて。」
「あ、はい。え?いや…」私は言った。
変更?嫌な予感が…。
能金がカバンから資料を取り出し、私のキーボードの上に置いた。
私は資料に目を通し、驚愕する。これのどこが"ちょっとだけ"なんだ…?
「能金部長。この変更をするんですか…?」私は言った。
「あぁ、バシッと頼むよ」能金が言った。
それだけ言うと、能金は帰宅する準備をし始めた。
もう一度落ち着いて書類に目を通す。
この仕様変更はシステムの深い部分に絡むもので、簡単に変更できる代物ではない。
「部長。この変更は簡単ではありません…。それに、今の納期では無理なスケジュールです」私は言った。
私の言葉を聞いて、能金の顔色が曇る。
「はぁ?何言ってるんだ、お前?俺は社長にちゃんと確認したぞ。ですよね、社長?」
部屋の奥でずっとキーボードを叩いていた社長の肩がビクッとした。
「あ、そうなんだ。新宮司君にも言おうと思っていたんだけどね」社長が言った。
私は自分の顔から血の気が引くのを感じた。
社長…。それは無いですよ…。
心の中で私は叫んだ。しかしもうどうしようもないことはわかっていた。
「わかりました…。ちょっと顔を洗ってきます…」
私は席から立ち上がり、給湯室に向かった。まだしばらく帰れそうもない…。
*************
社長と私は今後の仕事の進め方について話し合いをし、一度二人とも帰宅することにした。それは、追加の泊まりの準備が必要だったからだ。
私の家は、会社から電車で40分ほどの距離だった。
駅を降りて、商店街を歩くと、学校帰りの子供とその母親が自転車を引きながら楽しそうに歩いていた。
みんな家に帰るんだな…。そんな当たり前のことを考えていた。
家に着いた。
玄関の鍵を開け、「ただいま」と私は言った。
ただいま、家賃7万5,000円の私の家。今はほとんど寝るためだけの部屋。
シャワーを浴び、洗濯や必要な荷物をまとめた。少しベッドで横になりたいと思ったが、そんなことをしたらもう私が再び起き上がることはない。
「行くぞ…」私は言った。
きた道を巻き戻しするかのように戻り、会社に着く。
社長の姿はなかった。
まだ戻っていないのだろうか?
しかし、社長の方が会社から家が近く、すぐ戻れるはずだ。
「まさか、社長、逃げたんじゃないよね」私は呟いた。
いや、それはないだろう。
確かに一見頼りない武野宇社長だか、彼のエンジニアとしての腕は本物で、今回の能金部長の話もオッケーを出したのは、見積もって可能だと判断したのだと思う。
けど、それは私たちがフル稼働した場合だ。
彼はそう言った場合、案件を受けてしまい、スケジュールを詰め込んでしまうのだ。
私は、自分の机がある場所に向かった。
そして椅子に座ろうと背もたれを手をかけた。
その時だった。
ガタッ
突然、物音がした。
私は椅子の背もたれを持った状態で硬直した。
部屋に誰もいないはずだ。
「だ、誰?」私は音のする方へ声をかけた。
返事はない。
私は音のする方を凝視し、その音の出どころを探ろうと神経を集中した。
「ミャン」
子猫の声だ。
「ネコ…?」
私は声のする方へ歩いて行った。
社長の机の後ろに、動物用のゲージがあった。
その中に、一匹の小さな猫がいた。
その猫の姿を見た時、私の緊張は一気に緩んだ。
か、かわいい…。
子猫は、まるでブリキのおもちゃのように手足を動かしてゴロゴロしている。
私はその子猫から目が離せなくなり、思わずその場にしゃがんで、子猫を眺めていた。
しばらくすると社長がビニール袋をぶら下げて帰ってきた。
「あぁ、その子猫はね、うちの娘が拾ってきたんだ」社長が言った。
そしてビニール袋から子猫用のキャットフードを取り出した。
「まだ子猫だし、娘も小学生だしね。私が世話しないといけないんだけど、しばらく家には戻れなそうだろ?だから、一回会社に連れてきて、この後親戚に預けようと思っているんだよ」
社長がキャットフードを皿に盛ってゲージの中に入れると、子猫はキャットフードを食べ出した。
子猫は、まだキャットフードに慣れていないのか食べるのが下手で、それでもできるだけ早く餌をお腹に入れようと夢中で皿に顔を突っ込んでいる。
私はその姿から目が離せなかった。
社長は子猫が夢中に食べている様子を見て言った。
「実はまだその親戚に連絡してなくてね、これから電話してお願いするんだ」
社長はスーツのポケットからスマホを取り出して、電話帳を開いて親戚に電話をかけようとした。
私はとっさに社長の腕を掴んで言った。
「社長!」
社長の肩がビクッとした。
「は、はい」社長が返事した。
「私、今、猫の手も借りたいんです!だから、この子、しばらくここに置いてください!」
続く。